二度の解散と再結集を経て、2014年のアルバム収録曲「ピンク」が2026年にTikTok音楽チャート1位となった日本のバンド
二度終わったアカシックに、12年前の曲が帰ってくるまで
#112年前のアルバム曲が、突然1位になった
#22026年の夏、日本のTikTok音楽チャートの1位に、少し不思議な曲が現れた。
#3アカシックの「ピンク」。
#4新曲ではない。再結成後に作られた曲でもない。2014年のミニアルバム『プリチー』に収録されていた、12年前の曲だった。
#5しかも「ピンク」は、それまでずっとアカシックの代表曲として扱われてきた曲でもなかった。
#6かつて、アカシックを知らない人に最初に聴かせるならどの曲かと聞かれたとき、理姫と奥脇達也がともに挙げたのは「8ミリフィルム」だった。
#72019年、アカシックが解散するときの横浜Bay Hall公演でも、公開されたセットリストには「8ミリフィルム」や「you&i」が入っていたが、「ピンク」はなかった。
#8解散後に出た19曲入りのベストアルバムにも入らなかった。
#9その曲が2026年8月、TikTok音楽チャートに4位で現れた。
#10そして翌週、1位になった。
#11さらに「ピンク」だけではなかった。
#122017年の「you&i」が21位。
#132016年の「8ミリフィルム」が22位。
#14違う時期に作られたアカシックの曲が三つ同時に、新しい世代の画面の中を流れ始めていた。
#15なぜ、今だったのか。
#16最初に「ピンク」を使った一人の投稿者が特定されているわけではない。ある一つのダンスや動画がすべての始まりだったと確認されているわけでもない。
#17ただ、この曲の時間を逆にたどっていくと、もっと奇妙なことがわかる。
#1812年前の曲が帰ってくるより先に、アカシックというバンドそのものが、すでに二度終わり、そして帰ってきていた。
#19「このバンド、絶対売れないだろ」
#20最初からアカシックという名前があったわけではない。
#21理姫とベースのバンビ、ギターの奥脇達也は音楽学校で出会った。
#22最初から綿密なバンド計画があったわけでもない。
#23理姫とバンビは、メンバーも曲も十分に揃っていないのに先にライブを決めた。そして周囲を見回し、奥脇にギターが弾けるかと声をかけた。
#24奥脇は最初、サポートくらいのつもりだった。
#25それが、そのままメンバーになった。
#26アカシックの前身となるそのバンドは、やがて初めてきちんとした録音をする。
#27ライブや練習で鳴っている自分たちの音と、録音されて固定された自分たちの音は違った。
#28理姫は出来上がったものを聴いた。
#29そして思った。
#30「このバンド、絶対売れないだろ」
#31そこで終わらせた。
#32奥脇のもとには突然、理姫から連絡が来た。
#33「バンド、終わりでーす!」
#34奥脇も録音を聴きながら、自分たちはこの程度しか作れないのかという落胆を感じていた。
#35だから必死に止めることもしなかった。
#36もちろん、録音だけが理由ではなかった。
#37理姫はバンドにお金と時間を使い続ける生活にも疲れていた。
#38化粧品が欲しい。
#39服も買いたい。
#40クラブにも行きたい。
#41遊びたい。
#42バンドをやっていると、そこに使うお金がなくなる。
#43自分たちの音楽への失望と、バンド中心の生活から抜け出したい気持ちが重なった。
#44最初のバンドは、それで終わった。
#45バンドをやっていたことまで隠した
#46一つのバンドが終われば、別のメンバーを探して次のバンドを始める人もいる。
#47理姫はそうしなかった。
#48音楽そのものから離れた。
#49音楽学校時代の知り合いを避けた。
#50バンドマンがいそうな場所にも近づかなかった。
#51新しく知り合った人には、自分が以前バンドをやっていたことさえ積極的には話さなかった。
#52服を買った。
#53化粧品を買った。
#54遊んだ。
#55もう音楽とは関係のない人生を送れると思っていた。
#56そんな生活が約2年半続いた。
#57あまりにも連絡がなくなったため、昔の仲間の間で理姫が死んだという噂まで出たほどだった。
#58後になって理姫は、あの頃はバンドに対してちょっとしたトラウマのようなものがあったのかもしれないと振り返っている。
#59そこまで離れれば、もう終わったように見える。
#60理姫自身も、そう思っていた。
#61ところが音楽は、意外な方向からもう一度入ってきた。
#62ダサいバンドを見て、またバンドがやりたくなった
#63音楽から離れていた頃、理姫はあるバンドマンと知り合い、その人のライブを見に行った。
#64ものすごく格好いい演奏に感動して人生が変わった。
#65という話ではない。
#66逆だった。
#67理姫には、そのバンドがひどく格好悪く見えた。
#68なんでこんなバンドが、しゃあしゃあとライブなんかしているんだ。
#69そんな感情が湧いた。
#70ところが、その苛立ちが妙な方向に働いた。
#71こんな人たちだってステージに立って音楽をやっている。
#72なのに、どうして自分は完全にやめているんだろう。
#73二十代のうちに、やりたいことはやっておきたいという気持ちも出てきた。
#74そして理姫は、約2年半ほとんど連絡を取っていなかった奥脇に突然連絡した。
#75曲を作ってほしい。
#76またやろう。
#77ちょうどその頃、奥脇が別にやっていたバンドも終わったところだった。
#78一度は「絶対売れない」と別れた人たちが、また集まった。
#79今度の考え方は単純だった。
#80「とりあえず売れよう」
#812011年、アカシックが始まった。
#82今度は本当にメジャーまで行った
#83二度目は、前より遠くまで行った。
#842014年、初の全国流通ミニアルバム『コンサバティブ』を発売。タワーレコード渋谷店のインディーズ週間チャートで1位になった。
#85同じ年の10月、二枚目のミニアルバム『プリチー』が出る。
#86その中に「ピンク」があった。
#87当時は、アルバムに入っている曲の一つだった。
#8812年後、この曲がアカシック史上でも特に奇妙な形で1位になるなどという説明は、もちろんどこにもなかった。
#89当時のプロモーションでも、最も前面に押し出された曲ではなかった。
#90そして2015年。
#91アカシックはWarner Music JapanのunBORDEからメジャーデビューする。
#92最初のバンドの録音を聴いて「絶対売れない」と解散した理姫が、本当にメジャーレーベルまで来た。
#93ただ、そこがゴールではなかった。
#94むしろ「売れる」という言葉は、前より難しくなった。
#95奥脇は後に、メジャーデビューした頃は何をすれば売れるのかをかなり意識していたと話している。
#96でも、何が売れるのかなんて誰にもわからない。
#97そこばかり追いかけていたら、自分たちが本当に作りたいものまで作れなくなる。
#98かといって、売れるかどうかはどうでもいい、と言うこともできない。
#99バンドを続けるには、聴いてもらわなければならない。
#100お金も必要になる。
#101その問題への温度も、理姫と奥脇では少し違った。
#102奥脇は1位になりたいと言った。
#103理姫は、血まみれになってまで絶対に1位を取りたいタイプではないと言った。
#1042位や3位で、無事に家に帰れるほうがいい。
#105そんな調子だった。
#106そして、こんなことも言った。
#107勝手に取れた1位が、いちばん嬉しい。
#108そのときは、理姫らしい一言にすぎなかった。
#109奥脇が道を作ると、理姫はそこから外れていく
#110アカシックの曲作りには、長く続く基本形があった。
#111歌詞は理姫。
#112作曲は奥脇。
#113ただし、実際のやり取りはそんなに整然としていない。
#114奥脇は長い間、理姫のために曲を書いてきた。
#115だから曲を作る段階から、理姫の声を頭の中で鳴らすようになった。
#116メロディは比較的ポップで、入り口がわかりやすい。
#117初めて聴く人でも入ってこられる道を作ろうとする。
#118ところが理姫は、その道をいつも素直には歩かない。
#119奥脇が自分のメロディ入りのデモと、カラオケ状態のデモを渡す。
#120すると理姫が奥脇のメロディを無視して、まったく別のものを付けて返してくることがある。
#121奥脇は、それを嫌がらなかった。
#122むしろ自分には思いつかないものが返ってくることに感心した。
#123「8ミリフィルム」は、その関係がよく見える曲だった。
#124奥脇が最初に作ったデモは、自分でも出来がよくないと思っていた。
#125理姫も最初はほとんど相手にしなかった。
#126ところが改めて聴くと、コードと雰囲気は捨てるには惜しかった。
#127そこで理姫は、奥脇のメロディを頭から消して伴奏だけを聴いた。
#128自分で別のメロディを付け、歌詞を始めた。
#129曲は生まれ変わった。
#130後に、アカシックを知らない人に何を最初に聴かせるかと聞かれたとき、理姫と奥脇が選んだ曲の一つが「8ミリフィルム」だった。
#131理姫の歌詞もまた、曲を別の方向へ引っ張った。
#132初期の歌詞について、理姫はほとんどノンフィクションだと話している。
#133恋愛をする。
#134酒を飲む。
#135喧嘩をする。
#136朝起きる。
#137誰かを思う。
#138当時の生活が、そのまま歌の材料になった。
#139「ピンク」にも、そんな感覚がある。
#140描かれる生活は小さい。
#141起きる。
#142誰かを思う。
#143疲れて帰ってくる人のためにご飯を作りたいと思う。
#144ところが感情は突然、大きくなりすぎる。
#145相手の腕の中なら自分の人生が壊れてもいい、というところまで飛んでいく。
#146日常は小さい。
#147感情は大きすぎる。
#148奥脇の入りやすいポップと、理姫の妙に具体的で極端な感情。
#149その組み合わせがアカシックだった。
#150やっとバンドマンになれたと思った頃、また終わった
#151メジャーデビュー後も、メンバーは変わった。
#1522016年にはHachiが脱退した。
#153それでもアカシックは続いた。
#154そして次第に、理姫、奥脇、バンビ、ドラムの山田康二郎という四人の形が固まっていった。
#1552019年頃、アカシックはもう一度インディーズシーンに挑戦するような形で活動していた。
#156外から見れば、メジャー時代から後退したようにも見える。
#157でもメンバーが語っていた内部の感覚は少し違った。
#158いろいろなことを経験して、むしろメンバー同士の距離は近くなった。
#159これからどう活動するか。
#160どういう環境でバンドを続けるか。
#161そんなことも話すようになった。
#162そして理姫は、不思議なことを言った。
#163最近になって、やっと自分がちゃんとバンドをやっている人間になった気がする。
#164ようやくバンドマンになれた気がする、と。
#165かつてバンドから逃げ、音楽学校の仲間まで避けていた人だった。
#166奥脇は、ちゃんとバンドを始めるまでずいぶん時間がかかったと笑った。
#167それから数カ月後。
#168山田が、バンドを辞めたいと話した。
#169メンバーが嫌いになったわけではない。
#170ドラムが嫌になったわけでもない。
#171これから自分がやるべきことや背負うものを考えたとき、これまでと同じだけバンドや音楽に時間を使うのが難しくなった。
#172むしろ山田は、最近はメンバーとの関係がさらに深くなっていたと話した。
#173理姫はその話を聞いて、顔が真っ青になったという。
#174そして、すぐに決めた。
#175だったら、解散しよう。
#176二度目は、音楽から逃げなかった
#177表面だけを見れば、また同じことが起きた。
#178理姫がバンドを終わらせた。
#179でも今回は、最初の解散とは決定的に違っていた。
#180一度目の解散後、理姫は音楽から逃げた。
#181二度目の解散では、すぐに音楽を続けると言った。
#182そして奥脇とバンビも連れていく、と話した。
#183実際に三人は、可愛い連中という新しいバンドを始めた。
#1842019年に理姫が捨てたのは、音楽ではなかった。
#185奥脇との関係でもない。
#186バンビとの関係でもない。
#187Hachiが抜けたとき、アカシックは続いた。
#188しかしその経験を経て、理姫の中では、今いる四人の誰かが抜けるなら、それはもう同じアカシックではないという感覚が強くなっていた。
#189だから山田が離れると決めたとき、名前ごと終わらせた。
#190観客がいなくなっていたわけでもなかった。
#191大阪と横浜で予定されていた最後のワンマンは売り切れ、追加のファイナル公演まで決まった。
#1922019年10月26日、横浜Bay Hall。
#193アカシックはさまざまな時期の曲を演奏した。
#194「8ミリフィルム」もあった。
#195「you&i」もあった。
#196公開されたセットリストに「ピンク」はなかった。
#197最後に理姫が言った。
#198「これにて解散!」
#199これで解散。
#200アカシックは消えた。
#201翌年、バンドの歴史をまとめた19曲入りのベストアルバムが発売された。
#202そこにも「ピンク」はなかった。
#203解散した場所で、もう一度四人になった
#2043年後の2022年。
#205妙なライブが発表された。
#206会場は横浜Bay Hall。
#2072019年にアカシックが最後のライブをした、まさにその場所だった。
#208公演タイトルは「離国情調」。
#209最初から正式な再結成を大々的に宣言したわけではない。
#210「一夜の訳有り公演」。
#211そんな言葉で告知された。
#212しかも、その夜の構成が面白かった。
#213オープニングは可愛い連中だった。
#214つまり、アカシック解散後も一緒に音楽を続けていた理姫、奥脇、バンビがまずステージに立つ。
#215その後、山田まで加わったアカシックが出てくる。
#216解散後に残った三人が先に現れる。
#217そこへ、いなくなっていた一人が戻る。
#218四人がまた揃う。
#219まるで解散という出来事を、一晩のステージの上で逆再生しているようだった。
#220最初は、それきりでもおかしくなかった。
#221でも一度では終わらなかった。
#222「離国情調」のあとには「帰国情調」が続いた。
#2232023年には『約束』を出した。
#224解散から復帰までをまとめる最終章と説明された。
#225しかも、昔の曲を演奏するだけではなかった。
#226新しい音楽を作り始めていた。
#227そして2024年。
#228もう曖昧な言い方はやめた。
#229公演名そのものに書いた。
#230アカシック完全復活宣言公演「恐るべき計画」。
#231完全復活だった。
#232「ひとつだけ辞められない」
#233そのステージで理姫は、自分のことを話した。
#234自分は何にでも飽きる。
#235でも、ひとつだけ辞められないものがある。
#236それがバンドだ、と。
#237最初のバンドを終わらせた後は、音楽学校の友人を避け、自分がバンドをやっていたことまで隠した人だった。
#238その人が二度の解散を経て、バンドだけは辞められないと言っていた。
#239そして、それは復活ライブのためだけの言葉ではなかった。
#240次はアルバムを作りたい。
#241ツアーもしたい。
#242そう話した。
#243実際に2025年、アカシックはフルアルバム『ヘブン』を発表した。
#2442026年にも活動は続いた。
#2457月には「赤船来航」と「無様」を相次いで発表し、ワンマンライブも行った。
#246つまり2026年のアカシックは、過去を懐かしむために時々集まる解散バンドではなかった。
#247新曲を作っている、現在進行形のバンドだった。
#248そのバンドが前へ進んでいる最中に、聴き手のほうが突然12年前へ戻った。
#249バンドは前へ進み、聴き手は2014年へ戻った
#2502026年8月。
#251「ピンク」がTikTok音楽チャート4位に現れた。
#252翌週、1位になった。
#253どこから火がついたのかは、まだはっきりしない。
#254すべてを説明できる最初の一本の動画も確認されていない。
#255しかも動いたのは「ピンク」だけではなかった。
#256「you&i」と「8ミリフィルム」もTop 30に入った。
#2572014年。
#2582016年。
#2592017年。
#260別々の時代のアカシックが、まとめて2026年へ引っ張り出されていた。
#261だから、この出来事を「TikTokが死んだバンドを復活させた話」にすると、順番が逆になる。
#262アカシックはもう復活していた。
#2632022年には四人がもう一度ステージに立った。
#2642023年には新しい音楽を作った。
#2652024年には完全復活を宣言した。
#2662025年にはアルバムを出した。
#2672026年にも新曲を出していた。
#268先に帰ってきたのは、人だった。
#269昔の曲が帰ってきたのは、そのあとだった。
#270自分たちが選ばなかった1位
#271「ピンク」は2014年からそこにあった。
#272でも、アカシックを初めて聴く人にメンバー自身が選んだ代表的な入口ではなかった。
#2732019年最後の公演の公開セットリストにもなかった。
#274解散後に作られた19曲入りのベストにも入らなかった。
#275自分たちの歴史をまとめるとき、何度も中心から少し外れていた曲だった。
#27612年後。
#277新しい聴き手がその曲を中心へ持ってきた。
#278そして1位にした。
#2792017年、理姫は1位について話したことがある。
#280傷だらけになってまで、絶対に1位を奪い取りたいわけではない。
#281勝手に取れた1位が、いちばん嬉しい。
#282そんなことを言った。
#283それから約9年後。
#2842014年に作られ、
#2852019年の最後の日にも演奏されず、
#2862020年のベストにも選ばれなかった曲が、
#2872026年、日本のTikTok音楽チャートで1位になった。
#288その間に、アカシックは二度終わった。
#289そして二度帰ってきた。
#290今度は曲のほうが、バンドより少し遅れて帰ってきた。
#291アカシックが解散した直後もとして一緒に音楽を続けた・・は、なぜバンド名は手放しても互いと音楽は手放さなかったのか?