捨てられていた天然ガスでビットコインを採掘し、AIインフラ企業へと変貌した会社
油田でビットコインを掘っていた会社は、なぜAI時代の巨大インフラ企業になったのか
#1カリー・キャブネスにとって、石油や天然ガスは遠い世界の産業ではなかった。
#2父も祖父もその業界で働いていた。夕食の席でエネルギーの話を聞きながら育ち、自分もいつか同じ世界に入るのだろうと思っていた。
#3ところがMiddlebury Collegeに進むと、その感覚が揺らぎ始める。
#4そこでは気候変動が大きなテーマになっていた。Bill McKibbenらによる気候運動の影響も強かった。石油・ガス業界で働く家族への親しみと、化石燃料が気候に与える影響への問題意識。その二つを、Cavnessは簡単には切り分けられなくなった。
#5大学卒業後にはWatson Fellowshipを得て、世界各地のエネルギー事情を見て回った。
#6アイスランドでは地熱や水力、中国では石炭、スペインでは風力や太陽光。エネルギーと環境と経済が、現実の社会でどう折り合いをつけているのかを考え続けた。
#7その後は地熱発電の仕事にも就いた。
#8それでも最終的にCavnessは、自分が育った石油・ガスの世界へ戻っていった。
#9そしてそこで、どうしても気になる光景を見るようになる。
#10油井から出てくるのは石油だけではない。天然ガスも一緒に出てくることがある。
#11近くにパイプラインがあれば売ることができる。
#12でも、パイプラインがないこともある。あっても容量がいっぱいになっていることがある。
#13遠くまで運ぶための設備を造れば、ガスそのものの価値より高くついてしまう場合もある。
#14そんなとき、現場ではガスをそのまま燃やして処理することがある。
#15フレアリングだ。
#16Cavnessには、それがひどく奇妙に見えた。
#17使えるエネルギーが地面から出てきているのに、空に向かって燃やして消している。
#18ただし、彼は石油会社がなぜそうするのかも理解していた。
#19単純に「燃やすのをやめればいい」と言えば解決する話ではない。
#20ガスを市場まで運ぶコストのほうが高ければ、企業にとって経済的な選択肢がないからだ。
#21だったら問題はこう考えたほうがいい。
#22ガスを燃やさないほうが、燃やすより儲かる仕組みを作れないだろうか。
#23そして、その答えの片方は意外な場所にあった。
#24自宅の地下室だった。
#25Cavnessは当時、ビットコイン miningを試していた。
#26マシンは大量の電気を消費し、ものすごい熱を吐き出した。家の中の様子や電気代が変わり、妻にも気づかれるほどだった。
#27仕事場では、エネルギーが余っているから燃やしている。
#28家では、コンピューターが大量のエネルギーを欲しがっている。
#29まったく別々に見えた二つの問題が、少しずつ一つにつながり始めた。
#30Cavnessには高校時代からの友人がいた。
#31チェイス・ロックミラーだ。
#32二人はColoradoで同じ高校に通い、一緒にクライミングもしていた。
#33ただ、卒業後に歩んだ道はかなり違った。
#34LochmillerはMITで数学と物理学を学んだ。
#35当初は理論物理学者になりたいと思っていた。実際に研究も経験したが、基礎科学の研究が進むスピードは、自分の性格には少し遅すぎると感じるようになった。
#36そこで彼は、もっと速く動く世界へ移った。
#37quantitative tradingの世界で数学とコンピューターを使い、その後Stanfordでcomputer scienceの修士号を取得してAIを専門的に学んだ。
#38さらに暗号資産投資会社Polychain CapitalのGeneral Partnerになった。
#39そこでBitcoinというシステムにも深く触れることになる。
#40Bitcoinのproof-of-workでは、計算能力と電力が経済的な価値に変わる。
#41つまりBitcoin miningでは、電気代は単なる経費の一つではない。
#42事業の成否を左右する中心的な変数だった。
#432018年、LochmillerはPolychainを離れた。
#44そして長年抱いていた個人的な目標に向かった。
#45エベレストだった。
#46彼が高山登山に興味を持ったのは大人になってからではない。少年時代から山に魅了され、すでにいくつもの遠征を経験していた。
#472014年にもEverestへ向かった。
#48しかしKhumbu Icefallで雪崩が発生し、16人のSherpaが亡くなったことで、その年の遠征は終わった。
#494年後、Lochmillerは再びEverestへ戻った。
#50そして2018年、ついに頂上に立った。
#51ただし、CrusoeのアイデアをEverestの頂上で思いついたわけではない。
#52山からColoradoへ戻ったあと、これから何をするのかを考えていた。
#53そこへCavnessから連絡が来た。
#54二人はRockiesへクライミングに出かけた。
#55Cavnessとしては、Everestから戻った友人の話を聞きたかった。
#56ところがLochmillerが後に振り返ったところでは、その日の会話のかなりの部分を占めたのはEverestではなかった。
#57フレアリングだった。
#58Cavnessは、なぜ油田で天然ガスが余り、売れないまま燃やされてしまうのかを知っていた。
#59Lochmillerは、なぜBitcoin minerが安い電力を必死に探しているのかを知っていた。
#60二人の知識を並べると、いつもの問いが逆向きに見えてきた。
#61普通ならこう考える。
#62ここに天然ガスがある。
#63どうやって消費者のいる場所まで運ぼうか。
#64パイプラインを造る。
#65送電網につなぐ。
#66エネルギーを需要のある場所まで運ぶ。
#67でも二人は、その向きを反対にした。
#68ガスをコンピューターまで運ぶのが難しいなら、コンピューターをガスのところまで持っていけばいいんじゃないか。
#692018年、二人はCrusoeを創業した。
#70仕組みそのものは、言葉にすると驚くほど単純だった。
#71本来なら燃やされる天然ガスを発電機に入れる。
#72その場で電気に変える。
#73そして発電機の横に、コンピューターを詰め込んだmodular data centerを置く。
#74そうすれば天然ガスそのものを遠くまで運ばなくていい。
#75現場でエネルギーをcomputationに変え、その結果をインターネットで送ればいい。
#76Cavnessは後に、この考え方をdigital pipelineと表現した。
#77moleculeを運ぶ代わりにbitを運ぶ。
#78Crusoeという会社名も、この発想によく似合っていた。
#79孤島で手元にある資源を使って生き延びるロビンソン・クルーソーのように、遠隔地で使い道を失っていた資源を、その場所で価値に変える。
#80ただし、一つ大きな問題が残っていた。
#81その電気で、何を計算するのか。
#82今のCrusoeから過去を見ると、最初からGPUを置けばよかったようにも見える。
#83でも2018年には、それは現実的ではなかった。
#84Bitcoinのほうがはるかに都合がよかった。
#85Bitcoin miningは大量の電力を使う。
#86だから安い電力を手に入れられれば、それだけで大きな競争力になる。
#87しかも場所をほとんど選ばない。
#88San FranciscoやVirginiaの巨大データセンター街にいる必要はない。
#89電気があり、Bitcoin networkにつながる程度の通信環境があれば、遠く離れた油田でも動かせる。
#90一般的なcloud workloadほど大量のデータ通信を必要としないことも、remote oil fieldでは大きな利点だった。
#91そしてLochmillerは、Polychain時代からproof-of-workの経済性をよく理解していた。
#92つまりBitcoinは、Crusoeがたまたま選んだ最初の事業ではなかった。
#932018年の時点で、誰にも使われていなかったエネルギーを素早く収益へ変えるには、とても相性のいいcomputationだった。
#94Crusoeは油田へコンピューターを運び始めた。
#95ところが実際にやってみると、必要なのはBitcoin minerを置くことだけではなかった。
#96便利さを優先するなら、油田はデータセンターを置きたい場所ではない。
#97まず天然ガスを扱わなければならない。
#98そのガスで発電する。
#99作った電気を変圧し、分配する。
#100大量のコンピューターが吐き出す熱を処理する。
#101networkもつながなければならない。
#102機械が壊れれば、遠隔地にある設備を直して運転を続ける必要がある。
#103しかも油井の生産量はずっと同じではない。
#104時間とともに減っていくこともある。
#105だからCrusoeのdata centerは、巨大な建物として一か所に固定するより、移動できるほうが都合がよかった。
#106modularである必要があった。
#107Crusoeは現場を増やすたびに、こうした問題を自分たちで解いていった。
#108energy。
#109power generation。
#110electrical infrastructure。
#111cooling。
#112networking。
#113compute hardware。
#114remote operations。
#115普通なら別々の企業が担当してもおかしくない領域を、一つの現場で同時に扱う会社になっていった。
#116表面上はBitcoinを掘っていた。
#117でもその裏側でCrusoeが学んでいたのは、もっと広いことだった。
#118大量の電力を食うコンピューターを、エネルギーのある場所で実際に動かし続ける方法。
#119もちろん、後にAIへ進んだときBitcoin minerをGPUに差し替えただけではない。
#120AI training clusterははるかに難しい。
#121高価なGPUを何千、何万と連携させる必要がある。
#122GPU同士を高速networkで結ばなければならない。
#123冷却密度も、信頼性への要求も違う。
#124Crusoeはそうした能力を後から新しく積み上げる必要があった。
#125それでも、その下にある一つの考え方だけは、油田時代にすでに身についていた。
#126コンピューターの問題を解く前に、まず電力の問題を解かなければならない。
#127CrusoeのBitcoin事業は成長していった。
#128普通なら、ここで会社の戦略は単純になる。
#129うまくいっているものに集中すればいい。
#130ところがLochmillerは、AIやほかのhigh-performance computingについても話し続けた。
#131初期の投資家が後に振り返ったところでは、当時はむしろ不思議に思われていた。
#132Bitcoinの事業がうまくいっている。
#133どうしてそれだけに集中しないんだ?
#1342019年には、さらに奇妙な出来事があった。
#135Microsoftのinfrastructure担当者と、flare gasを使ってAzure data centerへ電力を供給できないかという話をする機会があった。
#136ちょうどMicrosoftがOpenAIへ最初の10億ドルを投資したころだった。
#137そこでLochmillerは、さらに先の話をした。
#138CrusoeがOpenAI向けのcomputeそのものを提供することもできるのではないか。
#139でも、何も起きなかった。
#140まだ市場がそこまで来ていなかった。
#141CrusoeはBitcoinを掘り続けた。
#142ただ、その横で別のcomputationも少しずつ試していた。
#1432021年になると、Crusoeの公式資料にBitcoinとは違う名前が現れ始める。
#144MIT Computer Science and Artificial Intelligence Laboratory。
#145Folding@Home。
#146OpenCV。
#147Bitcoin mining以外のcomputingを利用する初期ユーザーだった。
#148そして2022年4月、Crusoeは大規模な資金調達を発表し、CrusoeCloudの拡大を打ち出した。
#149そこで想定されていたworkloadには、AI research、machine learning、computational biology、drug discovery、simulationなどが並んでいた。
#150NVIDIA A100のようなGPUも提供していた。
#151ここで日付が重要になる。
#1522022年4月。
#153ChatGPTが公開されるおよそ7か月前だ。
#154だから、
#155crypto市場が崩れた。
#156ChatGPTが流行した。
#157そこでCrusoeが慌ててAIへpivotした。
#158という説明では、時間の順番が合わない。
#159Bitcoinは依然として大きな事業だった。
#160CrusoeはBitcoinを捨てたわけではない。
#161その横で、もう一つのcomputing businessを育て始めていた。
#162そして数か月後、世界のほうが大きく変わった。
#1632022年末、ChatGPTが登場した。
#1642023年にはgenerative AI競争が一気に加速した。
#165企業はNVIDIAのGPUを奪い合うようになった。
#166でもすぐに分かった。
#167GPUを買えば終わりではない。
#168何千、何万というGPUを一つの巨大な計算機のように動かすには、高速networkが必要になる。
#169大量の熱を処理するcoolingもいる。
#170高密度のrackを置けるdata centerもいる。
#171そして何より、
#172電気がいる。
#173途方もない量の電気が。
#174CrusoeはH100やA100のcapacityを増やし、NVIDIA Quantum-2 InfiniBand networkingを導入した。
#175GPUを増やすために数億ドル規模のfinancingも確保した。
#176そこで、油田から始まったCrusoeの経歴が急に意味を持ち始める。
#177多くのcloud companyはcompute側から下へ降りていく。
#178GPUがある。
#179どこに置けばいい?
#180電力はどこから持ってくる?
#181Crusoeは逆方向から登ってきた会社だった。
#182エネルギーがある。
#183そこにどんなcomputationを置けばいい?
#184油田で生まれた問いが、AI時代には桁違いに大きな問いになった。
#1852024年、CrusoeはTexas州Abileneで、それまでとは比較にならない規模のプロジェクトに乗り出した。
#186Lanciumとともに巨大なAI data center campusの建設を始めた。
#187最初に公表された規模は200MW。
#188やがてcampus全体の計画は1.2GWまで膨らんだ。
#1898棟。
#190およそ400万square feet。
#191高密度AI infrastructure。
#192direct-to-chip liquid cooling。
#193膨大な数の先端AI acceleratorを動かすための設備。
#194初期の油田に置かれた小さなmodular data centerと比べると、同じ会社とは思えないほど巨大だった。
#195でも、問いは驚くほど変わっていなかった。
#196電力をどこから持ってくるのか。
#197どうやって安定して配るのか。
#198熱をどう逃がすのか。
#199大量のコンピューターをどう止めずに動かすのか。
#200Abileneには、もう一つ不思議な巡り合わせもあった。
#201このprojectは最初から一般に「Stargateを造る」と発表されて始まったわけではない。
#202Crusoeが大規模AI campusの開発を進め、その後commercial structureが発展するなかで、AbileneはOracle Cloud Infrastructure上でOpenAIのworkloadを支えるStargateのflagship campusになった。
#2032025年には最初のphaseが実際に稼働を始めた。
#2042019年、LochmillerがOpenAI向けcomputeの話を持ち出したときには何も起きなかった。
#2056年後、CrusoeはOpenAIが使う巨大なAI infrastructureを造っていた。
#2062019年の会話がこのprojectを直接生んだという証拠はない。
#207それでも、この時間の巡り合わせはかなり印象的だった。
#2082025年3月25日、Crusoeは大きな決断を発表した。
#209Bitcoin mining operationとDigital Flare Mitigation事業をNYDIGへ売却することにした。
#210失敗した小さな実験を整理したわけではない。
#211この事業は425を超えるmodular data centerと250MWを超えるcapacityまで成長していた。
#212米国7州と2か国にまたがって展開され、約135人の従業員もNYDIGへ移ることになった。
#213Crusoeという会社を生んだ元の事業そのものを手放したのだ。
#214Bitcoinが単純に失敗したからではなかった。
#215AI infrastructureの規模が大きくなりすぎた。
#216必要なcapitalも人材も増え、BitcoinとAIという二つの巨大な事業を同時に追えば、会社の力が分散してしまう。
#217Crusoeは一つを選んだ。
#218AIだった。
#219でも、これはBitcoin時代を否定する選択ではなかった。
#220むしろ逆だった。
#221Bitcoinというworkloadは会社から消えていく。
#222しかしBitcoinを動かすために身につけたinfrastructureの考え方は、会社そのものに残った。
#2232025年10月、CrusoeはSeries Eのinitial closeで13億7500万ドルを調達し、企業価値は100億ドルを超えた。
#2242026年になると、数字はさらに大きくなった。
#225Crusoeは契約済みのAI infrastructure capacityが約4.9GWに達したと発表した。
#226tenantとの交渉中やadvanced development段階まで含めたbroader pipelineは40GWを超えるという。
#227Abileneだけではない。
#228Texas州Childressでは新たに1GW規模のAI campusを進めている。
#229onsite generation。
#230大規模UPS。
#231さらには原子力を使ったAI infrastructureを視野に入れるpartnershipまで広がった。
#232なぜそこまでエネルギーに踏み込むのか。
#233AIが大きくなるほど、Crusoeが最初から考えていた問題が戻ってくるからだ。
#234電気をどこから手に入れるのか。
#235送電網への接続を何年も待たなければならないなら、GPUを持っているだけではAI data centerは動かない。
#236そこで2018年の油田と同じ発想が戻ってくる。
#237電気をコンピューターまで運ぶことだけを考えるのではなく、
#238電気とコンピューターを最初から一緒に設計したらどうなるだろう。
#2392026年9月には、Crusoeが30億ドルを超える新たな資金を確保し、企業価値が約300億ドルになったと報じられた。
#240同じころ、Jane Streetと5年間で約130億ドル規模のAI cloud契約を結んだとも報じられた。
#241この二つの最新数字は、Crusoe自身がSeries Eで発表した数字とは違い、現時点では報道に基づくものとして扱う必要がある。
#242それでも、会社が創業時とはまったく違う規模の世界へ入ったことは分かる。
#2432018年、CavnessとLochmillerが見ていたのは、遠い油田で使い道がないまま燃やされる天然ガスだった。
#244二人はそのエネルギーを都市のdata centerまで運ぼうとはしなかった。
#245コンピューターのほうをエネルギーの隣へ運んだ。
#246最初にその電気を食べたのはBitcoin minerだった。
#247その仕事を通じてCrusoeは、発電、配電、冷却、network、そして大量のcomputeを現実の場所で運用する方法を学んだ。
#248やがてコンピューターは変わった。
#249Bitcoin ASICはAI GPUになった。
#250油田の小さなmodular data centerは、ギガワット級のAI campusになった。
#251そしてBitcoinそのものはCrusoeから消えた。
#252それでも、会社を生んだ最初の問いだけは消えなかった。
#253むしろAI時代になって、その問いは以前よりずっと大きな価値を持つようになった。
#254エネルギーをコンピューターまで運ぶのではなく、コンピューターをエネルギーのある場所へ運べばいいんじゃないか。
#255暗号資産からAIへ進んだのはCrusoeだけではない。もかつては暗号資産を採掘するためにGPUを動かしていた。それがなぜ数年後、AI企業が計算資源を求めて集まる巨大GPUクラウドになったのだろう。