『スピード』と『マトリックス』を経て、50歳で『ジョン・ウィック』による新たな全盛期を迎えた俳優
50歳で再びアクションスターになったキアヌ・リーブスが、古い仲間のもとへ戻り続ける理由
#1キアヌ・リーブスは何度も同じ動きを繰り返していた。
#2相手をつかむ。
#3投げる。
#4銃を構える。
#5撃つ。
#6次へ動く。
#7すでに『スピード』で世界的なアクションスターになり、『マトリックス』ではネオを演じた男だった。
#8それなのに50歳を目前にして、柔道や柔術、銃器の扱いを改めて身体に覚え込ませていた。
#9楽な訓練ではなかった。
#10後年、キアヌは『ジョン・ウィック』の肉体的な準備について話しながら、何度か吐いたこともあったと笑っている。
#11その訓練を見ていたのがチャド・スタエルスキだった。
#12二人は初対面ではない。
#1315年ほど前、『マトリックス』でスタエルスキはキアヌのスタントダブルを務めていた。
#14ネオの顔が見える場面ではキアヌが演じる。
#15危険な動きになるとスタントマンが入る。
#16観客には同じ一人の人間に見えるようにカメラがつなぐ。
#17かつてスタエルスキは、必要な瞬間にキアヌの身体の代わりになっていた。
#18ところが今度は、その男が監督としてカメラの後ろに立っている。
#19そして映画スターだったキアヌが、彼の前でまた生徒のように動きを繰り返していた。
#20しかも当時のキアヌは、キャリアの絶頂にいたわけではなかった。
#21名前を知らない人を探すほうが難しいほど有名だった。
#22でも、かつてのように大型アクション映画の主役が当然に回ってくる俳優ではなくなっていた。
#232013年の大作『47RONIN』も大きく失敗した。
#24そんな時期に届いたのが、一人の殺し屋を描く小さな脚本だった。
#25それが後に『ジョン・ウィック』になる。
#26では、キアヌ・リーブスはどうして50歳目前で、もう一度ここまで戻ってきたのだろう。
#27キアヌ・チャールズ・リーブスは1964年、レバノンのベイルートで生まれた。
#28母パトリシア・テイラーはイギリス出身。
#29父サミュエル・ノウリン・リーブス・ジュニアはハワイ出身のアメリカ人だった。
#30両親はキアヌが幼いころに別れ、彼は母や妹とともに移動した後、主にカナダのトロントで育った。
#31実父との関係は早くから遠くなった。
#32ただし、その事実だけで彼の子ども時代すべてを「不安定で孤独だった」と決めてしまうのは簡単すぎる。
#33キアヌ自身、後になって自分の幼少期が必要以上に悲劇的に語られることには距離を置いている。
#34学校生活がうまくいかなかったことは確かだった。
#35彼にはディスレクシアがあった。
#36いくつもの学校を移った。
#37芸術系の学校から退学処分を受けたこともある。
#38最終的に高校を卒業しなかった。
#39けれど、彼に何も得意なものがなかったわけではない。
#40アイスホッケーではゴールキーパーだった。
#41あだ名は「The Wall」。
#42壁だった。
#43高いレベルでホッケーを続けることも考えていた。
#44同時に、もう一つの世界も開いていた。
#45母は衣装デザイナーとして働いていた。
#46そのため家の周囲には、俳優や映画、舞台に関わる人々がいた。
#47母の夫の一人だったポール・アーロンは舞台や映画の演出家だった。
#48母との結婚生活が終わった後も、キアヌとのつながりは続いた。
#49キアヌは彼について劇場へ行った。
#50リハーサルを見た。
#51大人たちが台詞を合わせ、一つの舞台を作っていく場所にいた。
#52そこは普通の学校とはまるで違う教室だった。
#53十代になると、トロントの映画館でさまざまな作品を見るようになり、自分でも舞台に立ち始めた。
#5415歳ごろには、すでに俳優になることをかなり真剣に考えていた。
#55だから、
#56ホッケー選手を目指す。
#57けがをする。
#58夢を諦める。
#59代わりに俳優になる。
#60という一直線の物語ではない。
#61ホッケーと演技は、しばらく同時に存在していた。
#62学校を辞めたとき、彼が何もない場所へ飛び出したわけでもなかった。
#63学校の外では、すでに別の方法で自分の進みたい世界を学んでいた。
#64舞台やテレビ、CM、映画の小さな仕事を経て、1989年にキアヌを一気に有名にした映画が公開された。
#65『ビルとテッドの大冒険』。
#66キアヌが演じたのはTedだった。
#67映画は当たった。
#68そして成功した役は、すぐに俳優本人のイメージになった。
#69少しぼんやりしていて、
#70力が抜けていて、
#71独特な話し方をする若者。
#72観客はキアヌ・リーブスを見る前にTedを見るようになった。
#73成功したキャラクターは扉を開けてくれる。
#74でも、その扉が檻になることもある。
#75キアヌはそこに長く留まらなかった。
#76『ハートブルー』では肉体的なアクションに飛び込んだ。
#77そしてガス・ヴァン・サントの『マイ・プライベート・アイダホ』へ進んだ。
#78そこにはリヴァー・フェニックスがいた。
#79リヴァーは、この物語に「死んだ友人」として最初に登場させるべき人ではない。
#80まず友人だった。
#81キアヌは後に、若いころ特に親しかった人としてリヴァー・フェニックスとアレックス・ウィンターの名前を挙げている。
#82『マイ・プライベート・アイダホ』は、若い人気俳優が安全にイメージを守りたいなら避けても不思議ではない作品だった。
#83路上生活。
#84孤独。
#85セクシュアリティ。
#86愛情。
#87見捨てられること。
#88キアヌ自身、この作品の中に自分がうまく入れるのか不安だったと後に語っている。
#89リヴァーは演技の仕方も違った。
#90その場でシーンを変化させることに大胆だったリヴァーに対し、キアヌは書かれている言葉を大切にするタイプだった。
#91それでも二人は一緒に作品へ入った。
#92映画を代表する焚き火の場面にも、リヴァーの創造的な働きが強く残っている。
#93だからリヴァー・フェニックスは、キアヌが人生で失った人のリストに入る前に、
#94Tedという安全なイメージから外へ歩き出した時、隣にいた友人だった。
#951993年、リヴァーは23歳で亡くなった。
#96キアヌは何十年も後になっても彼の話をした。
#97伝説としてではなく、
#98友人として。
#991994年。
#100キアヌのキャリアはまた大きく変わった。
#101『スピード』。
#102一定速度以下になると爆発するバス。
#103キアヌは警察官ジャック・トラヴェンを演じた。
#104髪を短くし、身体を作り、それまでとはまるで違うヒーローになった。
#105映画は世界的なヒットになった。
#106すると次にやるべきことは簡単に見えた。
#107もう一度やればいい。
#108『スピード2』。
#109大きな出演料も用意されていた。
#110しかしキアヌは断った。
#111後になると、「バンドのツアーをしたかったから大金を捨てた」という話に単純化されることもあった。
#112実際には理由は一つではなかった。
#113脚本に納得していなかった。
#114『スピード』や『チェーン・リアクション』など身体を使う作品が続き、またすぐ同じタイプのアクション映画へ入る気持ちになれなかった。
#115別の芝居もしたかった。
#116音楽もやっていた。
#117スタジオ側は怒った。
#118それでもキアヌは戻らなかった。
#119同じころ、彼の選択をもっとよく表す場所があった。
#120ロサンゼルスではない。
#121カナダのウィニペグだった。
#122『スピード』がこれほど巨大な成功を収める前に、キアヌはそこで『ハムレット』を演じる約束をしていた。
#123映画が爆発的にヒットする。
#124俳優としての価値が一気に上がる。
#125もっと大きな仕事が来る。
#126それでも彼はウィニペグへ行った。
#127これを「金より芸術を選んだ聖人」の話にすると、少し違う。
#128キアヌにとって舞台は突然現れた高尚な趣味ではなかった。
#129十代のころから演劇をしていた。
#130ポール・アーロンについて劇場へ行っていた。
#131『スピード』が成功したからシェイクスピアへ逃げたわけではない。
#132もともとあった道が、巨大な映画スターになったことで急に奇妙に見えるようになっただけだった。
#133『スピード』の後、すべてがうまくいったわけではない。
#134『JM』は期待されたほど成功しなかった。
#135『チェーン・リアクション』も次の『スピード』にはならなかった。
#136『ドラキュラ』でのアクセントは長くからかわれ続けた。
#137そして1999年、また一度すべてが変わった。
#138『マトリックス』。
#139キアヌはNeoになった。
#140黒いコート。
#141サングラス。
#142弾丸を避ける身体。
#143映画はヒットしただけではなかった。
#144その後のアクション映画の見せ方そのものに大きな影響を与えた。
#145Tedのイメージに閉じ込められそうだった俳優は、今度は世界中が知る別の顔を手に入れた。
#146そしてこの作品で、チャド・スタエルスキとの関係も始まった。
#147スタエルスキはキアヌのスタントダブルだった。
#148首の手術後という難しい状態でも訓練を続け、できるだけ多くの動きを自分で演じようとするキアヌを近くで見ていた。
#149ただ、そのキャリアが頂点へ向かう時期に、私生活ではまったく別のことが起きていた。
#150キアヌは恋人ジェニファー・サイムとの間に子どもを待っていた。
#1511999年12月24日。
#152娘のAva Archer Syme-Reevesは妊娠後期に死産となった。
#153二人の関係はその後難しくなり、別れた。
#154ただ、完全に互いの人生から消えたわけではなかった。
#1552001年4月2日。
#156ジェニファー・サイムは自動車事故で亡くなった。
#157キアヌは葬儀で棺を運んだ。
#158ジェニファーは娘のそばに埋葬された。
#159ここに美しい教訓を置く必要はない。
#160この経験があったからキアヌは優しい人になった。
#161だから『ジョン・ウィック』で悲しみを演じられた。
#162そんな簡単な因果関係にはできない。
#163キアヌ自身、悲しみを「乗り越えれば消えるもの」とは話していない。
#164人を失えば、その人にいてほしいという感覚は残る。
#165後にアーティストのアレクサンドラ・グラントと作った『Shadows』について話した時も、悲しみを消すというより、別の形にして持っていけるものにするような考え方を語っている。
#166消えた人は戻らない。
#167でも残った人の人生も、その一点だけで止まり続けるわけではない。
#168その二つは同時に存在する。
#169『マトリックス』後もキアヌは働き続けた。
#170『コンスタンティン』。
#171『スキャナー・ダークリー』。
#172『イルマーレ』。
#173今でも強く愛されている作品もある。
#174けれど、業界の中での立ち位置は少しずつ変わった。
#175有名ではある。
#176仕事もしている。
#177それでも、大型アクション映画の「今の顔」ではなくなっていた。
#178自ら『ファイティング・タイガー』を監督したこともあった。
#179そして2013年。
#180『47RONIN』。
#181巨額の制作費がかかった作品は、大きな商業的失敗になった。
#182そのころ、プロデューサーのベイジル・イヴァニクはキアヌについて考えた。
#183過去数十年を代表するアクションスターの一人だったはずなのに。
#184いったいキアヌ・リーブスに何が起きたんだ?
#185彼は忘れられた俳優ではなかった。
#186もっと奇妙な場所にいた。
#187誰もが名前を知っている。
#188でも、現在進行形の大スターとしては扱われなくなっている。
#189そんな時、デレク・コルスタッドが『Scorn』という脚本を書いていた。
#190主人公は引退した殺し屋。
#191もともとはキアヌよりかなり年上の男を想定したキャラクターだった。
#192その脚本がキアヌに届いた。
#193彼はすぐに読んだ。
#194そして興味を持った。
#195ここで重要なのは、
#196良い役が落ちてきて、落ち目のスターを救った、
#197という話ではないことだ。
#198キアヌが参加すると、脚本も変わり始めた。
#199コルスタッドと人物や物語を練り直した。
#200そして自分が昔から知っている二人のアクションの専門家に企画を持っていった。
#201チャド・スタエルスキ。
#202デヴィッド・リーチ。
#203『マトリックス』時代の仲間だった。
#204昔の関係が、別の形で動き始めた。
#205最初の『ジョン・ウィック』には、巨大な超大作ほど自由に使える予算も撮影日数もなかった。
#206だから問題があった。
#20750歳近い俳優を、どうすれば説得力のあるアクションスターとして撮れるのか。
#208スタントダブルを多く使えば簡単だ。
#209ただし顔を隠す必要がある。
#210角度を変える。
#211細かくカットする。
#212本人ではないことが見えないようにする。
#213スタエルスキたちは逆へ進んだ。
#214キアヌ自身を、もっとできるようにする。
#215派手なパンチや蹴りだけではなく、柔道や柔術のように相手をつかみ、崩し、投げる動きを使う。
#216そこへ銃器操作をつなげる。
#217つかむ。
#218倒す。
#219撃つ。
#220武器を変える。
#221また動く。
#222一連の流れをキアヌ本人ができれば、カメラは逃げる必要がない。
#223だから訓練した。
#224何度も訓練した。
#225しかも、50歳の男を30歳に見せようともしなかった。
#226John Wickは殴られる。
#227投げ飛ばされる。
#228車にはねられる。
#229倒れる。
#230そしてまた立ち上がる。
#231若さを偽る代わりに、年齢による身体の重さそのものをアクションへ入れた。
#232その設計をしていたのが、かつてキアヌの代わりに危険な動きをしていた男だった。
#233『マトリックス』では、スタエルスキがキアヌの代わりになることでNeoという幻想を守った。
#234『ジョン・ウィック』では、スタエルスキが監督となり、キアヌ本人を長く映せるアクションを作った。
#235映画は2014年10月に公開された。
#236その直前、キアヌは50歳になっていた。
#237小さく始まったアクション映画は、新しいフランチャイズになった。
#23820年前。
#239『スピード』が大ヒットすると、キアヌは続編を断った。
#240『ジョン・ウィック』では違った。
#241第2作へ戻った。
#242第3作へ戻った。
#243第4作にも戻った。
#244スタエルスキと一緒に、アクションの規模も難度も上げ続けた。
#245今回は単に当たり役を見つけただけでなく、自分に合う制作システムまで見つけたのかもしれない。
#246ただ、それを本人に代わって断定する必要はない。
#247確かなことは一つ。
#248彼は残った。
#249そしてキアヌとスタントの世界との関係には、以前から続いているものもあった。
#250『マトリックス リローデッド』の大規模な格闘シーンでは、スタントチームが何週間も同じ激しい動きを繰り返した。
#251撮影後、キアヌはチームのメンバーたちにHarley-Davidsonのバイクを贈った。
#252それから約20年後。
#253『ジョン・ウィック:コンセクエンス』の撮影を終えると、パリで主要なスタントメンバーたちと食事をし、それぞれの名前を刻んだ腕時計を渡した。
#254こういう話が、キアヌ・リーブスという人物の伝説を作っていった。
#255そしてインターネットは、そこにさらに話を足し始めた。
#256キアヌ・リーブスについてネットで調べ続けると、そのうち俳優というより聖人のように見えてくる。
#257『マトリックス』で稼いだ金のほとんどを寄付した。
#258スタッフに何千万ドルも配った。
#259偶然出会った人の治療費をこっそり払った。
#260金そのものに興味がない。
#261しかし、その中には事実ではない話もある。
#262『マトリックス』収入の70%をがん研究に寄付したという有名な説は、事実として確認されていない。
#263腎臓移植が必要な見知らぬ人に現金を渡したという話も作り話だった。
#264ただし、全部が虚構というわけでもない。
#265キアヌは子ども病院やがん研究を支援する個人的な財団があることを自分で話したことがある。
#266スタントチームへの贈り物も実際にあった。
#267現実の小さな行動の上に、ネットがさらに完璧な人格を作り上げていった。
#268Saint Keanu。
#269そして、もう一人いた。
#270Sad Keanu。
#2712010年、ベンチで一人サンドイッチを食べているキアヌの写真が撮られた。
#272少しうつむいて見える。
#273それだけで十分だった。
#274写真は世界中でミームになった。
#275人々はすでにキアヌが経験した喪失を知っていた。
#276リヴァー。
#277Ava。
#278ジェニファー。
#279だから写真の空白に、その人生を全部入れた。
#280すべてを失った男が、一人で悲しんでいるように見えた。
#281でも後になってキアヌ本人が説明したことは、ずっと普通だった。
#282サンドイッチを食べていた。
#283腹が減っていた。
#284喪失は本物だった。
#285写真も本物だった。
#286ただ、その瞬間の感情まで写真から分かるわけではなかった。
#287そこには他人が作った物語が入っていた。
#288『スピード』で共演したサンドラ・ブロックには、別のキアヌの記憶がある。
#289映画の後、二人が話していた時のこと。
#290ブロックは何気なく言った。
#291シャンパンとトリュフをちゃんと味わったことがない、と。
#292お願いしたわけではない。
#293その場で話は終わった。
#294数日後。
#295ブロックが友人と家にいると、外からバイクの音がした。
#296キアヌだった。
#297花を持っていた。
#298シャンパンも。
#299トリュフも。
#300数日前の言葉を覚えていた。
#301少し一緒に座った。
#302ブロックが黒いマニキュアを塗っていたので、キアヌも自分の爪を塗らせた。
#303その後、別の予定があると言って出ていった。
#304後にブロックがこの話をした時、大事だったのはプレゼントの値段ではなかった。
#305キアヌは「聞く人」だということだった。
#306最初は、会話中の沈黙が長すぎて不安になることもあった。
#307何か話さなければ、と相手が空白を埋めたくなる。
#308でも後になって分かった。
#309彼はぼんやりしているのではない。
#310聞いている。
#311考えている。
#312キアヌ自身も、良い聞き手とは何かと尋ねられた時、かなり長く黙ってから答えたことがある。
#313関心。
#314そしてcare。
#315相手に関心があるから聞く。
#316相手を気にかけているから聞く。
#317あり得ないほど善良なKeanu伝説が簡単に信じられた理由も、そこに少しあるのかもしれない。
#318すべての美談が本当だったからではない。
#319実際に知る人たちが語る、小さくて具体的な話がすでに積み重なっていた。
#320『ジョン・ウィック』で再び全盛期を迎えた。
#321それなら物語はそこで終われそうだ。
#322でも60代のキアヌを見ると、むしろ昔のものが次々と戻ってくる。
#323まず音楽。
#324Dogstarは、スターになったキアヌが暇つぶしで始めたバンドではない。
#3251990年代からRobert Mailhouse、Bret Domroseと活動し、キアヌはベースを弾いていた。
#326そのバンドは長い間ほとんど止まっていた。
#327そして20年以上経って、三人はまた演奏を始めた。
#328最初は懐かしい再結成に見えた。
#329でも、それだけではなかった。
#330ライブをした。
#331新しい曲を書いた。
#3322026年には新しいアルバム『All In Now』まで発表した。
#333次はバイク。
#334キアヌは若いころからmotorcycleが好きだった。
#335ある時、自分のHarley-Davidsonをもっと理想に近い形へ変えてもらうため、ビルダーのGard Hollingerを訪ねた。
#336本来ならバイク一台の仕事だった。
#337ところが終わらなかった。
#338客と職人は共同制作者になった。
#339やがて二人はARCH Motorcycleを共同創業し、自分たちが乗りたい高性能バイクを作るようになった。
#340そしてさらに年月が過ぎると、会社はレースへ進んだ。
#341ARCH Racing。
#342小さなブティックメーカーが、大手メーカーたちと同じコースを走ることになった。
#343これは有名俳優が名前だけ貸したブランドとは少し違う。
#344一台のバイクを作る話が会社になり、
#345会社が次にはレースという別の課題を抱えるようになった。
#346キアヌの人生では、こんなふうに何かが大きくなることが何度もある。
#347好きなものがある。
#348それを深く知る人に出会う。
#349一緒にやってみる。
#350時間が経つ。
#351そして最初よりずっと大きなものになる。
#352アレクサンドラ・グラントとの仕事も似ていた。
#353最初から出版事業を始めようとしたわけではない。
#354キアヌが少し大げさに憂鬱さを表現した短い文章を書いた。
#355グラントはそこに絵をつけた。
#356そして小さな本にして、キアヌへの個人的な贈り物にした。
#357友人たちが見た。
#358笑った。
#359そして「本当に出版すればいい」と言い始めた。
#360だから本当に出版した。
#361『Ode to Happiness』。
#362その後『Shadows』も一緒に作った。
#363やがて二人は出版社まで共同で立ち上げた。
#364世間が二人の恋愛関係に強い関心を持つよりずっと前から、二人はすでに一緒にものを作る関係だった。
#365こうして見ると、60代のキアヌが突然いろいろな新しい挑戦を始めたという印象も変わる。
#366音楽は昔からあった。
#367バイクも昔から好きだった。
#368出版は小さな共同制作から長い時間をかけて育った。
#369そして演劇は、さらに古い。
#370十代から続いている。
#371キアヌはある時、アレックス・ウィンターに提案した。
#372『Waiting for Godot』を一緒にやらないか。
#373サミュエル・ベケットの作品。
#374VladimirとEstragonという二人の男が、来るかどうか分からない誰かを待ち続ける。
#375話す。
#376言い争う。
#377考える。
#378また待つ。
#379ウィンターは簡単な舞台ではないと分かっていた。
#380それでも二人はやることにした。
#381準備には何年もかかった。
#382そして2025年。
#383二人はBroadwayの舞台に立った。
#384キアヌにとってはBroadway debutだった。
#385でも向かいに立っている相手は、新しく出会った俳優ではない。
#386アレックス・ウィンター。
#3871989年にBillを演じていた人。
#38836年前、二人はBillとTedだった。
#389今はVladimirとEstragonになっている。
#390その一つの舞台で、キアヌの人生の二つの古い道が重なった。
#391十代から続いていたtheater。
#392そして若いころから続いていたfriendship。
#393『Waiting for Godot』では、二人の男が待ち続ける。
#394待っているものはなかなか来ない。
#395それでもキアヌは、この作品の中に希望を見ることができると話している。
#396二人が一緒にいるから。
#397それをそのまま彼の人生の比喩にしてしまう必要はない。
#398リヴァー・フェニックスは戻ってこない。
#399Avaも戻ってこない。
#400ジェニファー・サイムも戻ってこない。
#401キアヌ自身も、悲しみがいつか完全に終わる仕事のようには話してこなかった。
#402ただ、今の彼の人生を埋めているものが空白だけではないことも確かだ。
#403かつて危険な場面で彼の身体を代わりに使っていたチャド・スタエルスキは、何十年か後には監督となり、一緒に新しい代表作を作った。
#4041990年代に同じ部屋で音を出していたDogstarの仲間たちは、また新しい曲を演奏している。
#405バイク一台を作ってもらうため訪ねたGard Hollingerとは会社を作り、その先でレースまで始めた。
#406そして36年前にBillとして一緒に時間旅行をしていたアレックス・ウィンターは、Broadwayの舞台でまたすぐ隣にいる。
#407キアヌ・リーブスは長い間、次々と別人になっていく俳優のように見えた。
#408Tedから離れた。
#409Jack Travenになった。
#410Neoになった。
#411そこからまた中心を離れた。
#412そして50歳でJohn Wickになった。
#413でも長い時間をまとめて見ると、別のものも見えてくる。
#414彼は古い自分を捨て続けただけの人ではなかった。
#415長く好きだったものがあった。
#416長く続いた人間関係があった。
#417そして60代になった今も、そうした古いものの中へ戻っていき、最初とは違う形の何かを作り続けている。
#418Broadwayの舞台に二人の男が立っている。
#419昔はBillとTedだった。
#420今は年を取った。
#421まだ待っている。
#422そして、まだ一緒にいる。
#423『マイ・プライベート・アイダホ』を前に、キアヌ・リーブスとは、相手が出演するなら自分もやるというような約束を交わしていた。人気上昇中だった二人は、なぜ安全なスター路線から遠いこの映画を一緒に選び、作品はリヴァーの短い俳優人生でどんな位置を占めることになったのだろう?